メンタルヘルス対策・うつ      【 indexへ】

うつ病の運動療法

 運動によるうつ病・うつ状態の予防に関する基礎知識 (財)宮城県成人病予防協会

うつ病や抑うつ状態を早期に発見し、早期に医療に結びつけることが非常に大切ですが、発症自体を予防する活動は、これからのメンタルヘルス活動としてそれに劣らず重要なことになります。特に、運動はうつ病や抑うつ状態の発症予防の方策として注目されています。

うつ病は、精神疾患の一つですが、心とともに身体にも症状が現れる病気です。・・・。抑うつ気分が強ければ、周りからみても憂うつそうに見えます が、抑うつ気分があまりなく興味・喜びの減退の強いタイプの場合、本人さえも心の病気とは認識できないことがあります。これらは、いずれも生のエネルギー が下がった状態です。

このほかにも、頭の働きや動作が緩慢になる「精神運動性の制止」と呼ばれる特徴的な症状や、身も心もイライラする独特の焦燥感が現れます。

◎うつ病や抑うつ状態を引き起こす要因は?
〜運動習慣が失われることも一つの要因

疫学的な研究では、生活習慣も発症と関係することが分かってきました。生活習慣の一つに、運動習慣のないことがあります。そして、運動習慣がうつ病・抑うつ状態の予防や改善に役立つことが注目されるようになりました。

◎運動はうつ病・抑うつ状態を予防・改善する!
〜活発な身体活動を定期的に行うことが大事

米国のブレスローらが提唱した健康習慣と抑うつ状態の関係を調べた研究では、身体活動と
喫煙の影響が最も大きく、白人女性において、定期的に活発な身体活動を行わない者では行う者に比べて1年後に抑うつ状態の者が1.8 倍多いと報告されています。

カリフォルニア州のある地域の住民調査では、男女に関わらず、身体活動量の多寡だけではなく身体活動の変化も重要で、身体活動が活発になった者でうつ症状の出現は減り、不活発になった者で抑うつ状態になりやすいことも示されています。
運動は、うつ病の予防だけではなく、うつ病の治療にも利用されるようになっています。体操やウォーキングが、うつ病の回復期に復職や社会復帰のために行わ れるデイケアで定番のプログラムとなっています。運動は、うつ病によって衰えた体力を回復したり、生活リズムを整えたりする効果があるからです。

◎うつ病・抑うつ状態の予防のための運動の種類・強度は?
〜 まず、「身体を動かす」感覚を取り戻す
〜 好きな種目から、できる種目から始める
〜 身体が慣れてきたら、定期的に有酸素運動やスポーツを

数多くの研究が、有酸素運動はうつ病や不安気分の改善に有効だと報告しています。有酸素運動は強度や時間をコントロールしやすく、運動の実施という 点から有利です。運動強度が高いほうが抑うつ症状はより軽減する傾向がありますが、低強度であっても効果があります。身体活動量は生活習慣病予防と同程度 のレベルで十分とされています。

◎運動を行う上での注意
〜 うつ病・抑うつ状態の人はしばしば無理をする
〜 無理なときは焦らず、休養を勧める

運動は重度のうつ病の人には勧められていません。・・・運動指導にあたっては、生真面目に頑張りすぎないように注意する必要があります。

◎心の支援には、息の長い継続した活動が必要です

運動には、生理学的・心理学的な効果があります。生理学的には、運動が抗うつ薬と同様に脳内伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンのレベルを調節すると考えられています。運動により産生される脳内エンドルフィンが気分を改善させることも知られています。
心理学的効果は、運動を継続したことで得られる達成体験と自己効力感の高まり、技術的に向上したという成功体験があります。これらは人に自信を与え、困難に立ち向かう気力を高めます。仲間づくりなど運動を通して得られる社会的交流もメンタルヘルスにとって好ましいことです。運動は認知行動療法としても注目されています。これらの作用は互いにさまざまに影響し合っていると考えられます。

うつ病の運動療法研究報告 青葉こころのクリニック

運動がうつ病に効果を示した海外の研究報告

1999年、米国デューク大学医学部のブルメンサル教授の報告

この報告は、有酸素運動と抗うつ薬(SSRI/日本での商品名はジェイゾロフト)が、同じ程度の効果を示した世界で初めての治験。DSM-Wによって、うつ病と診断された男女156名(50歳以上)を対象に、ランダムに三グループに分け、一六週間の治験を実施し、うつ病の改善率を比較した。

結果

  • 有酸素運動だけのグループUは、90%近くの人が10ヶ月も改善効果を維持し、しかも再発率は8%だけ
  • かたやSSRI服用だけのグループTで回復した人が、10ヶ月後も改善効果を維持できたのは55%、再発率は38%にのぼった。
  • 有酸素運動とSSRIを併用したグループVでは、改善効果が維持できた人は62%で、再発率は31%だった。

 再発率だけ見ても、運動のみのグループUは、Tの約五分の一、Uの約四分の一という低さ。なぜ有酸素運動だけのグループは、他のグループよりも改善効果を維持できる人が多かったのか。
 有酸素運動だけで、うつ病を回復した患者は、「抗うつ薬に頼らず、運動療法だけで、うつが改善した」という自信、達成感がうつを改善した一つの要因だと推測できる。


1985年、ノルウェーの精神科医マーチンセンの報告

 DSM-V(1985年当時)で、うつ病診断基準九項目のうち、八項目が一年以上続いていた精神科入院患、男女49名が対象。
 49名の患者を有酸素運動と作業療法を行なうグループに分けた。有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、スキー、水泳など)グループは、最大酸素摂取量が50%から75%になる運動強度で、一日一時間で週三回を九週間実行した。残りのグループは同時間を作業療法に費やした。
 九週間後、有酸素運動グループの男女とも、持久力、パワー、柔軟性が著しく改善。さらに、「ベックのうつ病自己評価尺度」(21項目あり、点数が低いほどうつの度合いが低い)で、作業療法グループよりはるかに低い点数を示した。

1987年、米国ロチェスター大学のドイン教授の報告

うつ病患者40名(すべて女性)を「ジョギング・グループ」「筋トレ・グループ」「運動なしグループ」の三グループに分け、前者の二グループには八週間のトレーニングを実施。その後、ベック博士やハミルトン博士のうつ検査を実施し、三グループを比較しました。
結果
 運動なしグループと比べ、ジョギングと筋トレのグループは、顕著な改善が見られ、両者の改善効果に違いはなかった

1989年 マーチンセンの報告

 さらに、マーチンセン医師は、1989年に、うつ病患者の男女99名を対象にした治験を報告した。99名は病院で標準的な治療を受けており、半数は有酸素運動(ウォーキングやジョギングなど)を、最大酸素摂取量が70%の運動強度で、一日一時間で週三回を九週間続けて行なった。
 残りのグループは、同じ時間を柔軟体操、呼吸法、リラクゼーションなどを実行した。

結果
 どちらのグループも同程度にうつ病が改善した。このことからマーチンセン医師は、有酸素運動と柔軟体操、呼吸法、リラクゼーションの二種類の運動によるうつ病改善は、主に気晴らし効果(前述)によると推測した。


1992年、ドイツのワイアラー博士の報告

バイエルン市民1536名を対象に、うつ病のかかりやすさとスポーツ活動との関連を調査。
結果
 ほとんどスポーツをしない人は、定期的に運動をする人より、3・15倍もうつ病にかかりやすかった。

1994年、アメリカのパッフェンバーガー博士の報告

ハーバード大学に在籍した約17000人を対象に、運動と心の健康レベルを一定期間ごとに追跡調査。
結果
 一週間に三時間以上の運動をした男性がうつになる危険性は、一週間に一時間以内しか運動をしない男性より二七%も低かった。
 また、一週間に1000キロカロリー以上を有酸素運動で消費した男性は、うつ病の発生リスクが、あまり運動をしない男性に比べ17%低く、2500キロカロリー以上消費した男性は、28%も低かった。

うつ病 運動療法が効果 薬効きにくい人も改善 再発率低く 

2010年10月22日   提供:毎日新聞社

うつ病克服サラリーマンの体験記 うつ病克服に効果的な運動療法 

運動によって生活習慣を改善すると同時に、運動をする事でストレスを発散できるため不安や悩み事を溜め込まなくなる

始めるのは回復期に入ってから

簡単な目標を設定する

始めは軽い運動から

回復期は体調、気力ともに安定させることが重要ですので運動療法を取り入れる際にも目的をはっきりさせて気分転換程度の運動からスタート

継続する事で自信が持てて、健康維持にもつながる

運動療法まとめ
運動療法は必ずやらなければならないことではありません。回復期に入って少し身体が動かしたいなと思ったら始めれば良いのです。
私の知り合いには運動療法は全く取り入れていないのですが、身の回りの家事をやり続けてうつ病を克服した人もいます。

運動療法についてまとめると

  • 生活習慣病に効果的と言われている
  • うつ病を克服する上でも取り入れる価値はある
  • 無理な運動をせずに、気楽に簡単な運動から始める
  • ウォーキングやランニング程度で十分
  • 簡単な目標設定をしてみると持続しやすい
  • 自分に自信が持てるようになる
  • 無理な運動は逆効果
  • 健康維持にもつながる 

自分の体力は予想以上に衰えていますので、軽い運動から気楽に始めてみて下さい

遷延性うつ病に対するウォーキングなど有酸素運動の効果について 

運動のメンタルヘルス効果の検討(その1) -遷延性うつ病に対するウォーキングなど有酸素運動の効果について 聖路加看護大学紀要 Mar-2009

薬物療法抵抗性である遷延性うつ病の運動療法に関する報告はきわめて少ないので,運動療法が,抑うつ症状や体力など心身両面にどう影響するのかを検討した。薬物療法を単剤で2 種以上最高用量まで投与しているが,半年以上過ぎても改善傾向が見られない遷延性のうつ病患者( ICD-10 によるF32/33)2 例に,本人の希望により,薬物療法に加え,運動療法の介入を実施した。体力測定にはトレッドミルを使い,BruceProtocol を評価指標として,多段階運動負荷検査を行った。うつ症状の評価にはハミルトンうつ病評価尺度などを用い,気分評価にはPOMS(Profile of Mood State)などを使用した。その結果,2 例とも体力が増加し,HAM-D スコアが減少した。POMS においても,抑うつ感,疲労感,緊張−不安スコアに改善が見られた。うつ病への運動療法は,その心身への効果により,今後職場や学校への復帰のリワークプログラムの一つとなる可能性が期待される。


竹内義晴 ニュース 「職場 メンタルヘルス対策義務化へ」の感想と危惧 

2011/10/25

職場 メンタルヘルス対策義務化へ NHKニュース 2011/10/24

労働環境の3つの課題が垣間見えた、「仕事のやる気とメンタルケア」勉強会
 2011/10/23

■うつ患者が急増?

診断方法(質問の仕方)によっても結果は変わってくるのではないかと思います。たとえば、同じ内容でも「何をするのも面倒ですか?」「気分が晴れませんか?」と否定表現で問うのと、「前向きですか?」「気分が安定していますか?」と肯定表現で問うのとでは、ニュアンスに大きな違いがあります。

■うつと診断される方が増えることへの危惧

私の意見では、職場で抱くストレスレベルなら、薬よりもまず先にすべきなのは、十分に話を聞く環境を作ることでストレスレベルを下げること。先日も、お話を伺うだけで大きな改善が見られた事案がありました。

さらに、ストレスを感じる根底になる「なぜ、そのように考えてしまうのか」の部分に気づくようなアプローチを取り、修正していくことが大切だと考えています・・・根底の原因となっている「思考のクセ」を解決する可能性があります。

■私たち一人ひとりが抱える「考え方のクセ」の課題

同じ出来事に出会っても、物事を良い方向に解釈する人と悪い方向に解釈する人がいます。つまり、私たちは「考え方のクセ」を持っているのですよね。

「考え方のクセ」は、一般的に性格と言われなかなか変えられないものだと理解されています。実は、「性格」と言われているものの中には先天的な性格と、後天的な性格があります。
後天的な性格とは、これまで教わってきたこと、考えてきたことなど成長過程で作られていく性格のこと。先天的なものと後天的なものの、どちらの影響が強いかというと後天的な性格のほうが強いです。ただ、幸いなことに、「考え方のクセ」は「解釈のクセ」なので変えることができます。(労働環境の3つの課題が垣間見えた、「仕事のやる気とメンタルケア」勉強会

 

もし「最近ストレスを抱えていて、なんとなくやる気が出ないな〜」など、今まで以上にストレス感があったり、やる気が出ないと思ったりした時には、気持ちを話す環境を作ってみてください。聞き上手の方が回りにいたら、話を聞いてもらうだけで結構違います。

また、ストレスを抱えたスタッフがおいでのリーダーのみなさん、もし、あなたのスタッフが「最近、ストレスを抱えているようだな」と気がついたら、話を聞く環境を作ってあげてください。
・・・うつに「なった後」ではなく、職場での「なる前」の対応がとても大切です。

以上はうつに「なる前」の対応についてです。「なった後」では、投薬が有効なシーンもたくさんあるでしょう。必要な場合は、医師の診断も受けてください。

 

レジリエンス〜苦境とサバイバル 4.レジリエンスへの道

レジリエンスが発揮される逆境は、トラウマに限らない。アメリカ心理学会APAセンターは、レジリエンスを、逆境、トラウマ、悲劇、脅威、重大なストレス(家族の問題、人間関係の問題、深刻な健康問題、職場のストレス、経済的なストレスなど)に直面しても、うまく適応していくプロセスとする。そして、レジリエンスは特別な人のものではなく、誰もが学習したり発達させたりできるものであるという。APAによって提起されている「レジリエンスの道」を紹介しておきたい(http://www.apahelpcenter.org)。

@関係をつくる
 家族、友人、その他の近しい人と良い関係をつくることが重要である。あなたのことを気にかけ、あなたの言うことに耳を傾けてくれる人々からの助けとサポートを受け入れることがレジリエンスを強化する。市民活動、宗教組織、地域活動などに関わることで社会的サポートを得、希望を持つことができる人もあれば、誰かが助けを必要としているときに力を貸すことが自分の役に立つかもしれない。

A危機を克服できない問題だと捉えるのを避けること
 極度にストレスフルな出来事が起きるという事実を変えることはできないが、それをどのように解釈し、どう反応するかを変えることはできる。苦しい現在に囚われないで、未来は少し良くなっているかもしれないと考えてみよう。困難な状況を少しでもうまく扱えたと思えそうな小さなことに目を向けよう。

B変化を人生の一部として受け入れよう
 逆境の結果、いくつかの目標はもはや達成不可能になったかもしれないが、変化させられない環境を受け入れることで、自分が変化させることのできる環境に力を注ごう。

C目標に向けて歩むこと
 実現可能な目標も持とう。小さなことでも良いから、目標に向けて進むための何かを規則正しく重ねていこう。達成不可能な課題に囚われるのでなく、「自分が向かいたい方向に進めてくれることで今日できることは何だろう?」と考えてみよう。

Dきっぱりと行動しよう
 出来る限り逆の状況に働きかけよう。問題やストレスから逃げてしまったり、なくなればいいのにと空想してばかりいるより、きっぱりと行動しよう。

E自己発見のチャンスをさがそう
 人はしばしば、喪失との闘いの結果、ある意味で、自分について何かを学んだり、自分が成長したことを発見する。悲劇や辛苦を経験した多くの人々が、より良い人間関係、傷つきやすいときでも強さの感覚を増すこと、自己価値の増加、スピリチュアリティの発達、人生に感謝することを得たと言っている。

F自分自身についての肯定的な見解を養おう
 自分の問題解決能力に自信を持ち、自分の直感を信頼することがレジリエンスを築く。

G物事の展望を持ち続ける
 苦痛な出来事に直面しても、ストレスフルな状況をより大きな文脈のなかに置いて見るようにし、長期的な展望をもちなさい。釣り合いの取れない考えを持たないように。

H希望に満ちた見解を保つ
 楽観的な見解は人生に良いことが起こると期待することを可能にする。心配や怖れよりも自分の望むことをイメージしなさい。

I自分のケアをする
 自分自身の欲求と感情に注意を払うこと。自分が楽しんだり、リラックスできる活動に取り組みなさい。定期的な運動をすること。自分の世話をすることで心と体がレジリエンスを要求する状況を扱えるようになる。