寝殿造 1.5      寝殿造の定義         2016.8.26 

さて、もう一度寝殿造の定義を考えてみよう。先に、

「主屋を寝殿と云っていた頃の、その寝殿のある屋敷の建築様式を寝殿造と云うのがもっとも理に叶っていると思うが。」

と書いたが、その建築様式とはどういうものかである。庶民の住居(町屋)と共通するのは塗籠である。もちろん町屋では漆喰の塗り壁ではないが、閉鎖性の高い空間という意味で。

なお、塗籠の発端は>平井聖の 『日本住宅の歴史』での説が興味深い。証明は不可能だが多分そうだろうと思う。

塗籠を除いて寝殿造を定義するとすればその条件は何か。思いつくままに挙げてみよう。

  • 住居であること。
    これで寺院、神社建築を除外する。
    もちろんそれらの中には寝殿の移築によるものもあるが、一旦分けておかないと混乱する。
  • 土間は無く全て板敷き。
    大きな家でも中世・近世の大庄屋は土間を持つ。それらを除外。
    中世の在地小領主も近世の大庄屋とさほど変わらない。例えば伊豆の代官江川邸箱木千年家
  • 母屋の内部に柱は無い。
    これでおそらく唯一の中世民家である箱木千年家を含めた総柱建築を除外。ただしこれを厳密に適用すると、鎌倉時代の摂関家の屋敷の一部も寝殿造から外れることになる。主殿造との境目が明確になって良いかもしれない。
  • 固定壁で覆われてはいない。
    ただし部分的にはあっても良い。
  • 庇で母屋以外に室内を拡張し、更に縁を巡らす。
    必ずしも四面でなくともよいが基本は同心円。庇だけなら町屋(小屋)にもあり、主屋以外の雑舎もあるが、縁を巡らすものは無い。母屋、庇、縁、庭の何処まで上がれるかで身分の違いを表す。
  • 蔀(しとみ)を用いる。
  • 屋根は瓦葺ではない。
    檜皮葺でもこけら葺でもそれ以外の板葺でも良いが、瓦葺は構造力学的にかなり異なる。屋根の加重が少なくとも3倍になり、それを支えるために組物が複雑化し、桔木(はねぎ)なども必要になる。
  • 屋根は母屋・庇をそのまま反映している。
    つまり、間取りと切り離された大屋根は無い(これで中世から近世にかけた新建築を除外)。
  • 里内裏は含むが内裏は除く。

これもまた仮置きだが。

 初稿 2015.10.31